日々bibiビーム VI

作ったり読んだりなにか書きたくなったり。

【読みました】『アリになった数学者』

数年前に、森田真生さんの「数学ブックトーク」というミシマ社(という出版社)主催のイベントに参加したことがあります。森田さんの「数学について喋りたいことがいっぱいある」気持ちと「喋る時間が限られている」のが相まって、マシンガントークと言いますか、たぶんものすごい肺活量なのではないかと思うのですけれども、息継ぎまで惜しむ感じで、淀みなく、喋りっぱなしの、内容の濃いイベントでした。

お話された内容を全部は理解できませんでしたが、森田さんの「数学ほど面白いものはない、そしてそれを伝えたい」という気持ちの溢れ出かたが非常に印象的で、数学は一生無理と観念した文系の私でさえ「数学っておもしろいかも」とうっかり思ってしまうほどでした。それほど熱意を持って数学を語っていらっしゃいました。

 

そんな森田さんが「数学の絵本」を出版されたというのですから、その内容が気になります。数学×絵本という異色な取り合わせは森田さんならありそうですし、しかも福音館書店の「たくさんのふしぎ」シリーズになるというのですから、期待が膨らみます(余談ですがこのシリーズ、私が中学生くらい頃、実家で母が定期購読していました。たぶん創刊号から。誰用に買っていたのかは不明ですが、私は読んでいました。なので森田さんの本が「たくさんのふしぎ」シリーズになると知ったときは嬉しさと懐かしさがあふれました)。

 

そして先日無事購入して(置いていない本屋さんもあってハシゴしました)、

読みました。

ああ、すごいな、と思いました。

初っ端からアリ、というセンセーショナルな出だしなのですけれど、そこは元数学者らしく、まったく動揺せずにとても落ち着いた調子で話が進みます。小学生が普通に本を読むように、私も難しいことを考えずに普通に活字を追いましたが、前半では、数学は人間が世の中を捉えるための一つの手段で、世界の共通語であり、一つの「学問」であり、研究しがいがあるものなのだ、などということに思いを馳せることができました。

そんな「起承」があって、「転結」に続くのですけれども、

その後半の考え方が美しくて、どう書いたらいいかわからなくって、文字を打つ手が止まっております。

 

えーっと、先に絵の話をしてもよいでしょうか。

絵やイラストを描かれる方には、ある程度イメージがあると思うのです。作風というのでしょうか。人気のイラストレーターさんだと、その絵を見ただけで「あ、あの人の絵だ」ってわかることが多いと思いますし、ましてや、本一冊の挿絵とか、一冊の絵本を描くとなると、絵のトーンは同じにすると思うのです。統一感を持たせると思うのです。

 

が、この絵本は全然違って!

ページによって絵の感じがぜんぜん違うのです。やたら写実的なページ、デフォルメし過ぎでその線太すぎませんかというページ、かと思えばおしゃれなテキスタイル風のページなどもあり、そうなると必然的に使う画材も変わりますよね。絵に統一感というものがありません。

こういうのアリなんだー。「アリ」だけに(スミマセン)。

とびっくりしました。

 

数学という抽象的なものに絵をつけた脇阪克二さん。概念だけのページにも絵があるのです。絵本ですから。概念に絵をつけるって、うーむ、発想ですよね。

 

その脇阪さんの描かれた多様で多彩な絵の影響もあるのか、

後半は「数に色や輝きや動きがある」ということが、理解するわけでも目に見えるわけでもないのですが、そういうことがあってもおかしくない、というか、そういうことがあるかもね、という、そんな気持ちになりました。

難解なものだと思っていた数学は、「わかる」「わからない」という次元を超えて、もっと面白がれるものなのではないか、と思いました。カラフルで鮮やかな数の世界を感じることができるかもしれない。数学はまだまだ何かあるな、とワクワクする気持ちで読み終わりました。

 

数学という抽象的なもの扱っていますが、叙情的でもありました。すばらしいバランスの絵本でした。

 

 

この本を読んで感じた「ワクワク」は、以前に大栗博司さんの『重力とは何か』を読んだときと同じワクワクでした。数学も物理も具体的なことはほとんど理解できないのだけれど、どちらの本からも、こんな世界もあるんだよ、ワクワクするでしょ、というのが伝わって、そしてまんまとワクワクしてしまう、そんな本たち大好き。

(↓出版社のサイトにリンクしています)

アリになった数学者|福音館書店

重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る | 株式会社 幻冬舎

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この絵本で、私が一番感じ入ってしまった、というか、見ていて全然飽きないページがあって、それは44ページと45ページの見開きなのですけれども、なぜこのページはこうなのだ、という気持ちだけで何分でも見ていられます。脇阪さんの多種多様な絵の見本みたいなページです。

それと、一番おちゃめでかわいくてプププッとなったのは、「松のことは松に習え」の松になった絵です。すごくかわいい。